法案の「意見表明等支援事業」は二年間の検討結果を反映していない

はじめに

2019年児童福祉法附則第7条4号には次のように規定されています。

「政府は、この法律の施行後二年を目途として、児童の保護及び支援に当たって、児童の意見を聴く機会及び児童が自ら意見を述べることができる機会の確保、当該機会における児童を支援する仕組みの構築、児童の権利を擁護する仕組みの構築その他の児童の意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されるための措置の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」

この附則に応えるために、2019年改正法が施行された2020年4月1日から約2年間にわたっての子どもの権利擁護に関するワーキングチーム(2021年5月、「とりまとめ」)社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)(2022年2月、「令和3年度報告書])で検討が行われましたが、今回の法案は、そうした検討の結果がほとんど反映されてません。

ワーキングチームの「とりまとめ」と社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)の「報告書])は以下の通りです。

子どもの権利擁護に関するワーキングチームの審議ととりまとめ

2019年12月に、附則及び附帯決議を受けて、子どもの権利擁護について検討するためのワーキングチームが設置され1年半に及ぶ審議を経て2021年5月にとりまとめが行わました。

そのとりまとめの中から子どもの意見表明権の保障及び子どもアドボカシーに関する部分を引用すると以下の通りです。

「私たち抜きに私たちのことを決めないで」(Nothing about us without us)というメッセージがあるように、子どもの最善の利益を優先して考慮した福祉の保障を実現するには、子どもが意見を表明する機会が確保され、周囲の関係者が意見を聴き、適切に考慮・反映する環境が整えられることが前提となる。」(同3ページ)

「子どもは単独では意見を形成して外部に表明することが難しい場合もあり、意見表明の機会を確保しても、適切な意見表明支援が伴わなければ仕組みが有効に機能しないケースが生じ得る。このため、意見表明支援員の活動がそれらの機会に関与し、子どもの意見を代弁することで、子どもの意見が適切に関係機関に届けられるような仕組みを整備する必要がある。」(9ページ)

「児童福祉法上、都道府県等は、意見表明を支援する者の配置など子どもの意見表明を支援する環境の整備に努めなければならない旨を規定するべきである。さらに、こうした規定を踏まえた自治体の取り組み状況を踏まえつつ、意見表明支援員の配置義務化についても着実に検討を進めていくべきである。」(9ページ)

「意見表明支援員は、行政機関や児童福祉施設に対して子どもの意見を代弁し、時にはそれらの機関が行う決定や子どもの支援等について見直しや改善を働きかける役割を担うものであることから、それらの機関との間に利害関係が無いという意味での独立性が求められる。このため、意見表明支援の実施は児童相談所等とは別の機関が担うことを基本とすべきであり」(10ページ)

「意見表明支援員として活動するには、都道府県等が定める養成研修を修了することとし、当該研修カリキュラムにおいて、子どもの権利擁護や意見表明支援に関する基本的な考え方、実践のノウハウなどを学べるようにするべきである。具体的な研修カリキュラムについては、全ての自治体で一定水準が担保されるよう、既に取り組まれている民間のプロジェクトや自治体のモデル事業における養成研修の内容も参考にしながら、国において標準的な内容をガイドライン等で定めるべきである。少なくとも、意見表明支援に関する基本的考え方や、「エンパワメント」、「子ども中心」、「独立性」、「守秘」、「平等」、「子どもの参画」という意見表明支援の基本原則を理解し身につけることが必要である。」(11ページから12ページ)

「さらに、適切な意見表明支援を実施していくためには、高い専門性を有する有識者や相応の経験を積んだ意見表明支援員(スーパーバイザー)による指導・教育を通じて、継続的に意見表明支援のスキルを向上させていくことが重要であり、スーパーバイズを受けられる体制整備が必要である。」(12ページ)

令和3年度の社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)の審議と報告書

2021年9月の第31回以降の社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)において、子どもの権利擁護に関するワーキングチームのとりまとめをうけた審議が行われ、2021年2月に報告書が作成された。

同報告書の中の子どもの意見表明権の保障及び子どもアドボカシーに関する部分を引用すると以下の通りである。(26ページ以下)

○全ての子どもについて、特に養育環境を左右する重大な決定に際し、子どもの意見・意向を聴き、子どもが参画する中で、子どもの最善の利益を考えて意思決定が成されることが必要である。

○このため、都道府県等又は児童相談所が・一時保護を行う場合・施設の入所措置(指定発達支援医療機関への委託措置含む)、在宅指導措置、里親等への委託を行う場合・施設の入所措置、里親等への委託の期間更新、停止、解除、他の措置への変更を行う場合・児童自立生活援助事業の実施や母子生活支援施設の入所の場合には、子どもの最善の利益を考慮しつつ、子どもの年齢等に応じて、その決定が成される前に(緊急に一時保護を行った場合等は事後に)、子どもの意見・意向を聴取すること等により、その意見・意向を把握してそれを勘案しなければならない旨、法令や通知等に規定する。

○また、児童福祉施設においては、特に自立支援計画等を策定する際に子どもの意見・意向を聴く機会を確保する(会議に子どもが参画する等)よう、法令や通知等に規定する。

○子どもは一人では意見・意向を形成し表明することに困難を抱えることも多いと考えられることから、意見・意向表明支援(アドボケイト)が行われる体制の整備を都道府県等の努力義務にする。また、子どもの意見・意向表明を支援する活動を都道府県等による事業とし、都道府県等は意見・意向表明支援を行うことができるものとする。

○この際、意見・意向表明支援については、都道府県等は一定の独立性を担保する必要がある。その中で、外部に委託することを基本とすべきとの意見があった。

○そして、意見・意向表明支援の役割を担う者は、研修などでその資質を担保する仕組みが必要である。都道府県等において一定の水準が確保されるよう、国において研修プログラムの例を作成して提供するなど必要な支援を講じる必要がある。

○子どもが意見・意向の表明や子どもの権利擁護について知ることができるよう、都道府県等や児童相談所、施設等や里親等が機会を捉えて伝えていくことが必要である。

以下ではワーキングチームの「とりまとめ」と社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)の「報告書])を引用しつつ、改正法案の問題点について詳しく述べます。

意見表明の支援の目的が明記されていないこと

子どもの権利擁護に関するワーキングチームのとりまとめ

「私たち抜きに私たちのことを決めないで」(Nothing about us without us)というメッセージがあるように、子どもの最善の利益を優先して考慮した福祉の保障を実現するには、子どもが意見を表明する機会が確保され、周囲の関係者が意見を聴き、適切に考慮・反映する環境が整えられることが前提となる。」(同3ページ)

社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)の報告書(26ページ以下)

○全ての子どもについて、特に養育環境を左右する重大な決定に際し、子どもの意見・意向を聴き、子どもが参画する中で、子どもの最善の利益を考えて意思決定が成されることが必要である。

法案でこれに相当する部分は?

存在しません。

意見表明を支援する仕組みの整備、都道府県の努力義務について明記がないこと

子どもの権利擁護に関するワーキングチームのとりまとめ

「児童福祉法上、都道府県等は、意見表明を支援する者の配置など子どもの意見表明を支援する環境の整備に努めなければならない旨を規定するべきである。さらに、こうした規定を踏まえた自治体の取り組み状況を踏まえつつ、意見表明支援員の配置義務化についても着実に検討を進めていくべきである。」(9ページ)

社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)の報告書(26ページ以下)

「子どもは一人では意見・意向を形成し表明することに困難を抱えることも多いと考えられることから、意見・意向表明支援(アドボケイト)が行われる体制の整備を都道府県等の努力義務にする。また、子どもの意見・意向表明を支援する活動を都道府県等による事業とし、都道府県等は意見・意向表明支援を行うことができるものとする。」

法案でこれに相当する部分は?

法案の第六条の三第九項第一号には次のように書かれています。

⑰ この法律で、意見表明等支援事業とは、第三十三条の三の三に規定する意見聴取等措置の対象となる児童の同条各号に規定する措置を行うことに係る意見又は意向及び第二十七条第一項第三号の措置その他の措置が採られている児童その他の者の当該措置における処遇に係る意見又は意向について、児童の福祉に関し知識又は経験を有する者が、意見聴取その他これらの者の状況に応じた適切な方法により把握するとともに、これらの意見又は意向を勘案して児童相談所、都道府県その他の関係機関との連絡調整その他の必要な支援を行う事業をいう。

しかしここに書かれている意見表明等支援事業は、子どもの意見表明の支援を目的とするものではなく「児童の福祉に関し知識又は経験を有する者」が「児童相談所、都道府県その他の関係機関との連絡調整その他の必要な支援を行う」とあるように、都道府県や児童相談所がおこなうべき児童からの「意見聴取等措置」などの支援を目的とするもので、ワーキングチームや社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)が想定した、「都道府県等は、意見表明を支援する者の配置など子どもの意見表明を支援する環境の整備」や「意見・意向表明支援(アドボケイト)が行われる体制の整備」とは全く別物で子どもの意見表明の支援の実質を持たないものに意見表明等支援事業と命名する、悪質なごまかしが行われています。法案は意見表明等支援事業と名乗るだけの実質を備えるよう、内容の抜本的な組み換えが必要です

なお法案の第三十三条の六の二には「都道府県は、児童の健全な育成及び措置解除者等の自立に資するため、その区域内において、親子再統合支援事業、社会的養護自立支援拠点事業及び意見表明等支援事業が着実に実施されるよう、必要な措置の実施に努めなければならない。」と書かれていますが、意見表明等支援事業は子どもの意見表明の支援の実質を持たないものですから、ワーキングチームや社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)が想定した体制整備の努力義務とは対象が異なります。なお、法案の「必要な措置」とは何かも不明です。

アドボケイトの専門性について明記がない

ワーキングチームのとりまとめ

「意見表明支援員として活動するには、都道府県等が定める養成研修を修了することとし、当該研修カリキュラムにおいて、子どもの権利擁護や意見表明支援に関する基本的な考え方、実践のノウハウなどを学べるようにするべきである。具体的な研修カリキュラムについては、全ての自治体で一定水準が担保されるよう、既に取り組まれている民間のプロジェクトや自治体のモデル事業における養成研修の内容も参考にしながら、国において標準的な内容をガイドライン等で定めるべきである。少なくとも、意見表明支援に関する基本的考え方や、「エンパワメント」、「子ども中心」、「独立性」、「守秘」、「平等」、「子どもの参画」という意見表明支援の基本原則を理解し身につけることが必要である。」(11ページから12ページ)

社会保障審議会の報告書(26ページ以下)

○そして、意見・意向表明支援の役割を担う者は、研修などでその資質を担保する仕組みが必要である。都道府県等において一定の水準が確保されるよう、国において研修プログラムの例を作成して提供するなど必要な支援を講じる必要がある。

法案でこれに相当する部分は以下の通り。

第六条の三第九項第一七項には次のように書かれています。(再掲)

この法律で、意見表明等支援事業とは、第三十三条の三の三に規定する意見聴取等措置の対象となる児童の同条各号に規定する措置を行うことに係る意見又は意向及び第二十七条第一項第三号の措置その他の措置が採られている児童その他の者の当該措置における処遇に係る意見又は意向について、児童の福祉に関し知識又は経験を有する者が、意見聴取その他これらの者の状況に応じた適切な方法により把握するとともに、これらの意見又は意向を勘案して児童相談所、都道府県その他の関係機関との連絡調整その他の必要な支援を行う事業をいう。

しかし、たとえ「児童の福祉に関し知識又は経験」があったとしてもで、十分な学びと訓練がないと、子どもの心の声は聴けません。むしろ子どもに寄り添って、真摯にその声を聴くには、「児童の福祉に関し知識又は経験」は邪魔になりかねません。

アドボケイトの独立性について明記がないこと

ワーキングチームのとりまとめ

「意見表明支援員は、行政機関や児童福祉施設に対して子どもの意見を代弁し、時にはそれらの機関が行う決定や子どもの支援等について見直しや改善を働きかける役割を担うものであることから、それらの機関との間に利害関係が無いという意味での独立性が求められる。このため、意見表明支援の実施は児童相談所等とは別の機関が担うことを基本とすべきであり」(10ページ)

社会保障審議会の報告書(26ページ以下)

○この際、意見・意向表明支援については、都道府県等は一定の独立性を担保する必要がある。その中で、外部に委託することを基本とすべきとの意見があった。

法案でこれに相当する箇所は存在しません。

ワーキングチームのとりまとめにもあるようにアドボケイトには、「それらの機関との間に利害関係が無いという意味での独立性が求められ」ます。子どもの側にまったく立ち切ることができるよう、独立性を保障する定めをぜひ設けることをお願いします。

なお「意見表明等支援事業」の独立性について、2022.5.27の衆議院厚生労働委員会で子ども家庭局長は、「この子どもの意見意向表明等支援につきましてはこの問題を議論しました社会的養育専門委員会におきましても都道府県 とは一定の独立性を担保する必要があるとの指摘を頂いたことでございます。従いましてこれを行う体制につきましては措置等を実施する児童相談所等からは独立した第三者である立場の意見表明等支援院が担うことによりまして子どもの意見や意向をしっかりとくみ取ることができる制度設計にしたいと考えております。」と答弁しました。

都道府県を「意見表明等支援事業」が行う場合(法案第三十四条の七の二)、都道府県(児童相談所)と子どもの間には利害の対立がありえますから、子どもの意見表明の支援にあたる「意見表明等支援事業」には、都道府県(児童相談所)に斟酌しない独立性が不可欠です。よって都道府県が意見表明等支援事業を行う場合は、独立性があり専門性のある民間機関に委嘱して行うことを法律に明記するべきです。