2022年の児童福祉法改正により新設された「児童相談所等の意見聴取等義務」と「意見表明等支援事業(第6条の3の17)」についてー国会答弁の整理

児童相談所等の子どもの意見聴取等義務や子どもの意見表明等支援事業を盛り込んだ児童福祉法等の一部を改正する法律が2022年6月7日の参議院本会議で可決され成立しました。

この法律の制定審議において、衆議院と参議院の厚生労働委員会での議員からの質疑に答えて当時の厚生労働大臣と厚生労働省子ども家庭局長は次のように答弁をしており、これらの答弁は今後の意見表明等支援事業に関する児童福祉法の条文の解釈において重大な意味を持つと考えます。

なお子どもアドボカシー学会(当時子どもアドボカシー研究会)は、法案審議が行われている最中の2022年5月22日に、各地で子どもアドボカシーを研究・実践する子どもアドボカシーセンターなどと連名で参議院に意見書を提出し、その中で条文の内容が不明確な個所や、アドボカシーへの理解が不十分な個所について懸念を示し、修正の提案をしました。この意見書に目を通すと、各議員の質問の意図が理解しやすいと思いますのでご一読いただければと思います。

意見聴取等義務(第33条の3の3)や意見表明等支援事業(第34条の7の2)の意義

後藤茂之 厚生労働大臣(2022.5.11 衆議院厚生労働委員会) 「児童の権利に関する条約12条の理念も踏まえまして、児童福祉法の第2条においては、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮される旨が規定されておりまして、今回設ける児童相談所等の意見聴取等義務や意見表明等支援事業も、その趣旨を実現するために運用されていくものと考えております。  具体的には、今般の児童福祉法改正法案において、児童相談所等が、一時保護や施設入所措置等の際に、子供の意見や意向を勘案して措置等を行うように、意見聴取等義務を設けるとともに、意見表明等支援員が、上記の措置等の際や処遇について、子どもの意見や意向を把握し、必要な支援を行う旨の規定を設けております。」

意見表明等支援事業は誰のためのものか

(打越さく良議員が、「改正法案の六十条の三、十七項の意見表明等支援事業についてですが、この条文上、子どもの支援が目的ということは明記されておりません。支援を受けるのが子どもなのか児童相談所なのかと、都道府県その他の関係機関かというのが分からないわけですね。  子どもの支援が目的ということを明らかにすべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。」と質問したのに答えて

後藤茂之 厚生労働大臣(2022.5.24 参議院厚生労働委員会) 「委員御指摘の今般の児童福祉法改正案の意見表明支援事業の規定は、子どもの最善の利益のため、子どもの立場に立ってその意見、意向を把握し、必要に応じて行政機関や児童福祉施設等の関係機関等との連絡調整を行うことを規定したものでありまして、明記はしておりませんけれども、委員御指摘の子どもの支援の趣旨は含んでいるものと認識をしております。  今後、施行に向けてガイドライン等の策定を検討してまいるわけですけれども、こうした考え方を自治体にも周知して、子どもの権利保護の観点に資する適切な運用が担保されるように取り組んでまいりたいと思います。」

意見表明支援事業の定義の、「児童の福祉に関し知識又は経験を有する者」とは

(早稲田ゆき議員が「児童福祉に関し知識又は経験を有する者といいますと、子育てをしている皆さん全般がそれに当たるのではないかとも取れるわけです。私は、ここで、児童福祉だけではなく、児童の権利というものも含まれるべきではないかと考えますが、まず大臣の御認識を伺います。」と質問したのに答えて

後藤茂之 厚生労働大臣(2022.5.11 衆議院厚生労働委員会) 「弁護士や社会福祉士等の専門職、ノウハウのあるNPOなど、多様なバックグラウンドを持つ人材が担うことを想定いたしております。  このため、このような方々を包摂する表現として児童の福祉と規定したものでございまして、児童の福祉は、委員御指摘のとおりで、児童の権利を包含するものと認識しております。」

意見表明等支援員に、条文上、専門性が必要と明記されていないことについて

福島みずほ議員の「児童の福祉に関し知識又は経験を有する者というふうにしておりますが、この子供の意見表明権を保障するには、子供アドボカシーを理解し、子供の側に立ち、子供のいわゆるマイクとなる専門性を有する必要があると考えています。  児童福祉に関し知識、経験を有するだけで誰でもできることではありません。子供の意見表明支援に関する専門性という文言を入れるべきではないでしょうか。」との質問に答えて

橋本泰宏 厚生労働省子ども家庭局長(2022.5.24 参議院厚生労働委員会)「意見表明等支援員は、子供の最善の利益のために、子供の立場に立ってその意見や意向を把握し、必要に応じて行政機関や児童福祉施設等の関係機関等との連絡調整を行う役割を担うものでありまして、一定の専門性が必要であるというふうに認識しております。  その上で、条文上は、弁護士や社会福祉士等の専門職とか、あるいはノウハウのあるNPOなど、非常に多様なバックグラウンドを持つ人材が担うということを想定しておりますので、したがって、有する、そういった方々が有している専門性も様々であるということから、条文上は、専門というふうな言葉ではなくて、児童の福祉に関して知識又は経験を有する者というふうな規定の仕方をさせていただいていると、こういうことでございます。」

児童相談所等の意見聴取等義務の「意見聴取その他これらの者の状況に応じた適切な方法により把握する」について、意見聴取が原則か?

(早稲田ゆき議員が「子どもの意見を聞かないで、観察とか記録、また関係者の見解から子どもの意見を推察するというようなことだけに終わることが絶対にないように・・・していただきたいと思います。」と質問したのに答えて

後藤茂之 厚生労働大臣(2022.5.11 衆議院厚生労働委員会) 「委員御指摘のとおり、自ら意見を述べることが可能な子どもに対しては、意見聴取が原則なされるものというふうに考えております。  子どもの意見表明等支援においては、審議会等での議論を踏まえまして、ゼロ歳児や幼児等も対象としておりまして、そのような自ら意見を述べる能力が未熟な場合であっても、言葉のみならず、その態様や行動変化など、客観的な状況を酌み取ることも想定しているため、児童に応じた適切な方法により、意見又は意向を把握するものと規定をいたしております。  意見聴取以外の具体的な方法については、今後、現場の方々や有識者の意見等を踏まえまして、施行までに検討をしてまいりたいというふうに考えております。」

「意見聴取その他これらの者の状況に応じた適切な方法により把握する」の意義

(打越さく良議員が、「法案の六条の三の十七項で、意見聴取その他これらの者の状況に応じた適切な方法により把握するとあるんですけれども、いささか曖昧ではないかという危惧が言われております。お子さんから聴取しない場合もあるのかと。で、子どもの意見や意向でないものを子どもの意見や意向ということで把握したよということにならないのかという懸念なわけですね。」と質問したのに答えて

橋本泰宏 厚生労働省子ども家庭局長(2022.5.24 参議院厚生労働委員会)「この子どもの意見表明等支援事業、支援におきましては、審議会等での議論も踏まえまして、例えばゼロ歳児とか幼児等も対象としておりますので、そのような自ら意見を述べる能力がまだ未熟な場合であっても、言葉のみならずその態様や行動変化など客観的な状況を酌み取ることということも想定いたしております。例えば、乳児について、親と一緒に面談したときと親と離れた乳児院での様子との違いとか、そういったものを観察するなどが考えられるわけでございますが、意見聴取以外の具体的な方法については、今後、現場の方々や有識者の意見等も踏まえて施行までに検討してまいりたいというふうに思います。

また、自ら意見を述べることが可能な子どもに対しては意見聴取ということが原則なされるものというふうに思います。  今委員から御懸念を示されたように、本人から意見聴取ということをせずに、ほかの方から聴取を行うのみで子どもの意見や意向を把握したとするような運用ということは私ども想定いたしておりません。」

「意見又は意向を勘案して」の意義

(早稲田ゆき議員が、「ここに勘案とありますが、勘案というのは、いろいろまとめて考え合わせるということであろうとは思いますが、考慮とか重視よりも低いということはないということを確認させていただきたいと思います・・」と質問したのに対して

後藤茂之 厚生労働大臣(2022.5.11 衆議院厚生労働委員会) 「法律上の用例も踏まえて、意向を勘案と法律案では規定したものでございまして、勘案と考慮で、その程度を比較して規定しているものではなく、考慮より程度が劣るとも考えておりません。」

「勘案」とはどういう意味か

(打越さく良議員が、「法案の三十三条の三の三、児童の意見又は意向を勘案してとあるんですけれども、この勘案してというのはどういう意味なのかということも懸念されています。これはなぜ尊重としていただけないのか・・」と質問したのに対して

橋本泰宏 厚生労働省子ども家庭局長(2022.5.24 参議院厚生労働委員会)「現行の児童福祉法の第二条におきましては、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮される旨が規定されており、今回設ける児童相談所等の意見聴取等義務や意見表明等支援事業も子供の意見を尊重するとの趣旨を実現するために運用されていくべきものというふうに考えております。」

児童相談所等の意見聴取等義務と意見表明等支援事業の関係

(早稲田ゆき議員が、改正案が児童相談所等が、一時保護や施設入所措置等の際に、子どもの意見や意向を勘案して措置等を行うように、意見聴取等義務を設けることに関し、「意見又は意向の把握、これはそもそもは児童相談所、こうした実施機関がやるべき責務でありまして、このアドボケート、これがそれを補完するものだけであってはならないと思います。」と質問したのに答えて) 

後藤茂之 厚生労働大臣(2022.5.11 衆議院厚生労働委員会)  「これら(児童相談所等の意見聴取等義務と意見表明等支援事業)は、それぞれ子どもの最善の利益のため、子どもの意見や意向を把握するために重要な制度でありまして、委員が御指摘されるとおりで、補完的な関係にあるものではないと認識をいたしております。
 その上で、子どもの意見や意向については、それぞれの制度に基づきまして、子どもの置かれた状況や子供のニーズに応じて、意見表明等支援員や児童相談所、関係施設の職員など適切な関係者が把握し、適切な子どもへの支援につなげていくことが重要であるというふうに考えております。」

意見表明等支援員の養成カリキュラム

(早稲田ゆき議員が「いわゆるアドボケートの、意見表明支援員さんの養成については、厚生労働省の子ども権利擁護ワーキングチームの取りまとめにも書かれておりますように、意見表明支援に関する基本的な考え方、それからまた、エンパワーメント、子ども中心、独立性、守秘、それから平等、子どもの参画という六原則、これを理解し身につけることが重要だと書かれておりますので、こうした専門家の意見を取り入れ、そして、原則を取り入れた養成カリキュラムを国が作るということでよろしいのか。」に答えて)

後藤茂之 厚生労働大臣(2022.5.11 衆議院厚生労働委員会) まず、今先生から御指摘もありました六つの点でございますけれども、昨年五月に取りまとめられた権利擁護ワーキングチームの報告書において、意見表明等支援員については、エンパワーメント、子ども中心、独立性、守秘、平等、子どもの参画という意見表明支援の基本原則を理解し身につけることが必要というふうに取りまとめをさせていただいております。
 意見表明等支援員にはこのような専門性が必要であると認識しておりまして、国としても、意見表明等支援員の養成カリキュラムの例の作成等を通じて、専門性が確保されるように、しっかりと支援をしてまいりたいというふうに思っております。
 意見表明等支援事業については、都道府県等における実施が進むように、事業実施に当たってのガイドラインの策定を予定しております。」

ガイドラインの策定とその時期

(早稲田ゆき議員が「施行が令和6年4月となっておりますが、大体どのぐらいまでにガイドラインを作られる予定か、目途をお知らせいただきたいと思います。」と質問したのに答えて

後藤茂之 厚生労働大臣(2022.5.11 衆議院厚生労働委員会) 「可能な限り早くお示しし、自治体に準備していただけるよう検討していきたいというふうに考えております。  なお、子どもの権利擁護に関しては、これまでも調査研究を実施し、都道府県等にもお示ししてきておりまして、都道府県等においてこれらの活用も図っていただきたいというふうに考えております。  いずれにしても、意見表明等支援事業のガイドラインの策定の前に、座談会を開くなど、様々な方法を通じて、意見表明等支援の取組について周知を進めていきたいと考えております。」

児童相談所と意見表明支援事業

(早稲田ゆき議員が「今の実施機関、児相、そうしたところと意見が、子ども供の意見が違う場合はもちろん多々あります。・・・対立する場合があるわけです。ですからこそ、独立性を担保する、あるいは民間の専門機関に委託をするというようなことも視野に入れていただいているのだと思いますが、そのことについてお答えをいただきたいと思います。」と質問したのに答えて

後藤茂之 厚生労働大臣(2022.5.11 衆議院厚生労働委員会) 「御指摘の独立性については、法文上明記されておりませんけれども、実際に一時保護や措置等を実施する児童相談所等からの独立性が重要であると認識しておりまして、社会保障審議会の専門委員会の報告書においても、一定の独立性を担保する必要がある旨記載されております。  今後、施行に向けてガイドライン等の策定を検討してまいりますけれども、こうした考え方を自治体にも周知しまして、子どもの権利擁護の観点に資する適切な運用が担保されるよう、厚生労働省としてしっかりと取り組んでまいりたいと思います。」

後藤茂之 厚生労働大臣(2022.5.11 衆議院厚生労働委員会) 「御認識のとおり、意見表明等支援を行う者は、児童相談所からの独立性が求められるため、児童相談所が自ら行うことは想定されておりません。」

都道府県が行う意見表明等支援事業として何を想定しているか

(打越さく良議員が、「関係機関との連絡調整その他の、その他必要な支援を図る機関として何を想定していらっしゃるのでしょうか。また、この点についてガイドラインを何らか示すおつもりかも併せてお伺いします。」と質問したのに答えて

橋本泰宏 厚生労働省子ども家庭局長(2022.5.24 参議院厚生労働委員会)「今般の児童福祉法改正案において創設する意見表明等支援事業では、意見表明等支援員が子供の一時保護や入所措置の決定等や入所措置等がとられている間の処遇についての意見、意向について把握をし、そして、必要に応じて児童相談所、都道府県その他の関係機関の連絡調整等を行うことというふうに規定しております。  
・・・児童相談所、都道府県以外の関係機関といたしましては、入所措置等がとられ児童が生活している児童養護施設ですとか、あるいは里親家庭などを想定いたしております。  
 具体的には、今後、策定を検討するガイドラインにおいて、自治体や有識者の意見を踏まえながら、施行までに具体的な調整先の関係機関やその調整方法などを検討してまいりたいと考えております。」

橋本泰宏 厚生労働省子ども家庭局長(2022.5.24 参議院厚生労働委員会)「厚生労働省では、近年、平成三十年から意見表明支援に関する調査研究を毎年実施してきております。これらの調査研究の成果は厚生労働省で開催した検討会において資料に用いられるなど、今回の改正法案の検討にも活用してきているわけでございますが、今般の児童福祉法改正案において創設する意見表明等支援事業の施行に向けて今後様々な検討を重ねていくわけでございますが、その中でもこれらの研究で得られた知見というものを最大限活用してまいりたいと考えております。」

橋本泰宏 厚生労働省子ども家庭局長(2022.5.24 参議院厚生労働委員会)「社会保障審議会におきましても、意見表明等支援員の都道府県等における養成研修について、国において研修プログラムの例を作成して提供するなど必要な支援を講じる必要があるということが指摘されております。  このため、厚労省といたしましては、今年度に実施する予定の調査研究等を通じて研修のカリキュラムの例を策定して自治体に示し、専門性を有する意見表明等支援員の養成を促すことを検討しておりまして、こうした取組を通じて今御質問いただきました質の担保ということを図ってまいりたいというふうに考えております。」

橋本泰宏 厚生労働省子ども家庭局長(2022.5.24 参議院厚生労働委員会)「この研修プログラムの例の作成は、既にモデル事業等において意見表明等支援を実施している自治体や有識者の意見を踏まえながらしっかりと調査研究を行った上で、施行までに可能な限り早くお示しし、都道府県等に準備いただけるように検討したいと考えております。」

「都道府県は・・意見表明等支援事業が着実に実施されるよう、必要な措置の実施に努めなければならない。」(第33条の6の2)の意義

橋本泰宏 厚生労働省子ども家庭局長(2022.5.24 参議院厚生労働委員会)「必要な措置の中身でございますが、一つは、それぞれの地域における担い手の候補となる、例えば弁護士とかNPOとか専門職の団体などと調整をいたしまして効果的な事業体制について検討するということ、これが一つ。それから二つ目といたしまして、意見表明等支援の担い手となる者に対する研修などの人材確保、養成ということに取り組むということ、これが二つ目。そして、事業実施に必要な予算の確保を行うこと、これが三つ目ということで、こういったものを想定しております。  今後、施行に向けてガイドラインの策定等を検討してまいりますが、こうした考え方についても整理をし、丁寧に自治体等に周知してまいりたいと考えております。」

意見表明支援制度を全国で義務化することについて

橋本泰宏 厚生労働省子ども家庭局長(2022.5.24 参議院厚生労働委員会)「これを将来義務化できるかどうかという点については、今後の普及状況などを見ながら、今後また判断していかなければいけないというふうに思います。」


衆議院の厚生労働委員会での質疑応答(議事録)

2022年5月11日 104~115(質問:早稲田ゆき)

参議院の厚生労働委員会での質疑応答(議事録)

2022年5月24日 041~058(質問:打越さく良) 062~083(同:福島みずほ) 105~108(質問:川田龍平) 146~147(質問:石田昌宏)   
2022年6月7日  008~021(質問:打越さく良) 088~089(同:森屋隆)

厚生労働省「子ども・子育て支援推進調査研究事業」調査研究の一覧

橋本泰宏 厚生労働省子ども家庭局長(2022.5.24 参議院厚生労働委員会)「厚生労働省では、近年、平成30年(2018年)から意見表明支援に関する調査研究を毎年実施してきております。これらの調査研究の成果は厚生労働省で開催した検討会において資料に用いられるなど、今回の改正法案の検討にも活用してきているわけでございますが、今般の児童福祉法改正案において創設する意見表明等支援事業の施行に向けて今後様々な検討を重ねていくわけでございますが、その中でもこれらの研究で得られた知見というものを最大限活用してまいりたいと考えております。」